ディストピア TOKYO

業界や店の利用者からは反発、とまどいの声もあがっている。週刊金曜日掲載ルポ

by on 3月.29, 2010, under New!! ネットカフェ規制, タウン情報

3.30 ネットカフェ規制反対!!! 採決直前情宣朝8じ!

potlatchです。ルポライターの西村仁美さん、そして「週刊金曜日」さんのご厚意により、西村さんによる「ネットカフェ規制」記事、全文アップさせていただきます!! 都議会開催直後の2月26日号に掲載された記事です。公開質問状にお返事をくれない「日本複合カフェ協会」顧問・若松修氏のコメントもあり。

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ネットカフェ、利用者に
身分証提示を義務付け !?

警視庁が東京都にインターネットカフェや漫画喫茶などの規制を求め、
本人確認などを義務付ける条例案を提出する。
業界や店の利用者からは反発、とまどいの声もあがっている。

西村 仁美

(掲載号:「週刊金曜日」2010年2月26日号 特集:派遣労働者を裏切る民主党)

 二〇〇九年一〇月、警視庁は、「インターネットカフェ等を利用した犯罪等の防止対策の在り方に関する有識者懇談会」を発足させた。同懇談会の報告書によると、インターネットカフェ(以下、ネットカフェ)や漫画喫茶等の規制の柱はおよそ次の三点だ。①東京都公安委員会への店の営業の届け出義務。②店の利用客に対する本人確認の義務付け。③店の利用者の利用記録の保存。具体的には、客がいつからいつまで店を利用したか、その際、どのパソコンを利用したかといった情報の保存をさす。これらを「実効あるものにするためには」違反者に罰則を設ける必要性が説かれている。②に関しては、本人特定に関し虚偽の申告をした利用客も処罰の対象に含まれる。つまり、これらの内容が条例化されれば、運転免許証やパスポート、健康保険証などの公的身分証を持たない人たちは、ネットカフェを利用できなくなる。
 都内でも人気のありそうな格安ネットカフェ店に行ってみた。店の近くに専用のコインロッカーがある。大きな手提げ袋をロッカーに詰め込んでいる年配の女性に声をかけた。
 「ネットカフェで暮らしてもう三ヶ月くらいになるわよ。毎日、リクライニングシートで寝ているけれど、腰が痛くて・・・・・・」
女性は前日から仕事をみつけ、働き始めているという。事情があり、夫妻でネットカフェで寝泊まりしながら、仕事に通う。女性が利用するネットカフェは、会員制ではなく、誰でも利用料さえ支払えば使える店だ。今回、警視庁が検討中の本人確認の義務付けなどどのように思うか聞いてみた。「ホテルは身分証を出さなくても泊まれるでしょ。ネットカフェで身分証を出さなきゃならなくなるのはおかしいわね」とつぶやく。
 
<路上への期間が狭まる>
 厚生労働省の最新の調査では、全国にあるネットカフェや漫画喫茶などは三二四六店舗。東京都では五六一店舗(警視庁調べ)だ。また、先の女性のように安定した住まいを持たず、ネットなどで寝泊まりする人たちは、全国で推計約五四〇〇人、東京都二三区で約二〇〇〇人だ。都では、そのうち、派遣や日雇いなど不安定な仕事に就く人たちを対象に、サポートする相談窓口を設けている。「TOKYOチャレンジネット」だ。
 二〇〇八年四月の開設以来、これまでに六〇〇〇人を超える相談があった。担当の福祉保健局生活福祉部生活支援課の松本功自立支援担当係長の話では、窓口相談に訪れる約四割が公的身分証を持たない人たちだという。「(本人確認の義務付けが条例化した場合)身分証のない人は二四時間営業のファストフード店などに流れていくと思います。また、ネットカフェ等が使えなくなれば、それだけ路上に行くまでの期間が狭まり、短時間で路上に行ってしまうのではないか」と続けた。
 業界側の意見はどうか。冒頭の警視庁の有識者懇談会のメンバーで、業界団体の「日本複合カフェ協会」顧問である若松修さんはこう話す。
 「本人確認義務などの条例化は原則的に受け入れます。ただ、二四時間営業のネットカフェや漫画喫茶は、社会的インフラという側面も持ち合わせます。身分証を持たない人の対応も考えたいと思います」
 ちなみに同協会は、現在、加盟店舗数が全国で約一三〇〇だが、厚労省調査の全国総店舗数からみると、この協会に属さない店舗のほうがはるかに数は多い。非協会員の経営者にも話を聞いた。店の住所で住民登録のできる店舗もあるネットカフェ「CYBER@CAFE」の佐藤明広代表取締役はいう。「うちは会員制ですが、身分証のない人が絶対利用できないわけではなく、いつもサポートできることを考えます。たとえば自分たち店の経営者が刑事事件の当事者にもなりかねないのであれば、条例化による締め付けには従っていこうと思います。ただ、身分証が出せない人が店からはじき出される形でないものを作っていただければ」。

<説得力のない報告書>
 もともとネットカフェや漫画喫茶などは、会員制と非会員制があり、利用者が自由に店を選択し、利用することができた。罰則まで設け、本人確認をあらゆる店舗に義務付けねばならぬほど、インターネットや漫画喫茶などを利用した悪質で凶悪な犯罪が都では激増しているのだろうか。前述の報告書は、ネットカフェ等で行なわれる犯罪について、「匿名性を悪用したハイテク犯罪が後を絶たず、とりわけ個室においてはその密室性から、ハイテク犯罪のみならず、置引きや性犯罪」をあげる。だが、報告書によれば、ネットカフェ等で発生した刑法犯の種類では、窃盗が全体の約八五・三%(五七九件)と大半を占める。報告書が強調する「ハイテク犯罪」について警視庁生活安全総務課に尋ねたところ、「不正アクセス禁止法違反等」の「ハイテク犯罪」は刑法犯ではなく特別法犯にあたるため件数は公表していないという(※後日、本人確認のないネットカフェでの「ハイテク犯罪」を公表、わずか八件であった)。
 これでは、その「匿名性」ゆえに「本人確認義務」が必要とする報告書の根拠がみえない。また、性犯罪は、同課によれば全体の一・一%で率は低い。結局、報告書で強調する犯罪のうち、データの裏付けのある「置引き」などの窃盗が最大の問題ならば、たとえば、無料のコインロッカーをおけばかなり予防できるのではないか。いずれにせよ、こうした報告書・資料だけでは本人確認義務にふみきるほどの説得力に乏しい。
 条例案について、警視庁広報課に取材を申し込んだところ、電話回答があった。条例案の細かい内容についてはまだ検討中で、概要は「パブリックコメント」をみればわかるとのこと。警視庁による意見募集は、同庁のHP上で昨年一一月二八日から一二月一一日まで行なわれた。パブコメの内容を見ると、意見提供者数は二五六人、警視庁の条例化に向けての検討項目である本人確認義務に関する意見は一八一件。そのうち、「本人確認すべき」は七一件と一番多い。警視庁幹部はこの結果をもって本人確認義務を柱とする条例案について「おおむね賛同が得られた」とする(『朝日新聞』〇九年一二月二六日朝刊都内版)が、意見募集期間は、たった二週間で周知もわずか。意見提供者数が少ない上に、規制賛成意見に続くのは不安や懸念ばかり。「個人情報の保護を徹底してほしい」が四九件、「ネットカフェ難民等が利用できなくなることが懸念される」が四〇件となっている。だが、警視庁の先の報告書にはこうした否定的意見は反映されていない。

<条例案は二月都議会へ>
 二月一日、市民グループ「東京都安全安心まちづくり条例改悪に反対する共同声明」が、警視庁によるネットカフェや漫画喫茶の規制を問題視し、「ネットカフェ(漫画喫茶)規制条例に反対する共同声明」を公表した。本人確認の義務付けにより身分証の持てない人が店から排除される可能性や、プライバシーの侵害・個人情報流出の危険性を訴えている。また、同グループが行なったアンケート調査によれば、一年以内にネットカフェを利用したことのある七六人中、二二人が身分証を持たず、一九人が宿泊場所としいて利用していたという。母数が少ないとはいえ、このままでは、四人に一人以上がネットカフェから排除されることになる。
 条例案は、警視庁から二月二四日開会の都議会に出される。二月一七日に明らかになった条例案によれば、違反者には一年以下の懲役か一〇〇万円以下の罰金が科される。可決されれば、早ければ今年七月一日から施行される。都議の福士敬子さんはいう。「ネットカフェなどの規制には基本的に反対です。防犯の観点から考えても、犯罪の逃げ道はいくらでもあると思います。本人確認を義務付ければ、今度は身分証偽造などやる人が出てくるでしょう。警視庁の報告書を読む限り、こうした規制で根本的な犯罪の予防になるとは思えません」。
 ネットカフェなどの規制条例は、防犯という大義名分のもと、身分証を持てない人たちを犯罪者視し、店からただはじき、野宿生活者にさせていくだけのことになりはしないか。

▼週刊金曜日公式サイト
 http://www.kinyobi.co.jp/ 


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